見積もりは難しい

2021/02/14

見積りは難しい

会社を辞め、フリーランスとして活動し始めて最初にぶつかった困難は見積もりの作成だった。そして法人化した今でも、適切な見積もりができているのかは、自信がない。

会社員時代に自社の見積もり作成などの業務に携わっている人ならば、その分野に関しては簡単に見積もり作成ができるかもしれない。しかし、多くの会社員にとって見積もりの作成は慣れない業務ではないかと思う。あなたがフリーランスとして活動しているとして「〇〇という仕事を願いしたいのだけど、いくらでできそう?」と聞かれた時に、すぐに答えるのは難しいだろう。これはフリーランスだけに限ったことではなく、会社員にも言えることだ。会社員の方は自分が支払っている労力の対価として今の給料に満足しているだろうか。私の知り合いで、自分の給与に関して会社と交渉したことがある人を聞いたことがない。給与は規定で決まっており、交渉の余地はない。勤めていれば年々上がっていくような年功序列的な価値観は未だに多くの人に内在していると思う。

そんな状況からフリーランスになってしまうと自分の生み出した価値に対する適切な金銭も受け取れず、搾取される未来が待っているに違いない。(本来は会社員であろうと自分の給与に関して雇い主側と交渉することが適切な形だと思うが、実際にそれを実行するのは難しいだろう。)そこで、今回はどうやったら見積もりが作成できるか私なりの考えを記録しておく。

簡単に見積もりを作成する

見積もりを作成する最も簡単な方法は、自分の時給を決めてしまうことだ。例えば、自分の時給を2000円と設定して計算すると、依頼された仕事にかかる所要時間から簡単に見積もりを作成することができる。この時フリーランスとして時給を計算するなら、一般的なアルバイトや正社員の時給を参考にするのは危ない。フリーランスは納税・年金・社会保険など自らが負担しなければならないものが多いため、一般的なその地域の時給をもとに安易に判断すると後々金銭的に厳しくなってしまう。また、守秘義務などの問題で特定の場所での作業を求められる場合、そこまでの交通費も計算に入れる必要がある。

基本時給×想定稼働時間+必要経費 = 見積額

で簡単に見積もり作成ができる。また大抵の場合、想定稼働時間より実際の稼働時間は長くなる傾向がある。最初の何回かは、見積もり作成に失敗して赤字になる可能性もあるが、慣れてくれば精度も上がる。

時給計算の注意点時給で見積もりを作成するのは簡単だが、作業内容によって妥当な時給が変わる点も考慮しなければならない。簡単な入力作業や書類作成などは誰にでもできるが、士業やプログラミングのような資格や専門的な技能・知識が必要な仕事に関しては高時給を設定できる。私の場合は、単純作業とプログラミングなどでは別の時給を自分の中で設定していた。

見積もりに神の見えざる手はあるか

資本主義では、需要と供給のバランスで適正価格が決まる「神の見えざる手」が働くなんて話を義務教育で聞いたことがある。これは、オークションなど開かれた空間では確かに起こるかもしれないが、見積もり依頼のような2社(者)間の閉ざされた空間では働かないと思っている。もちろん市場の相場というものは存在するが、相場をよく知らない仕事の依頼などが来ることももちろんあるだろう。また、競合他社がいくらで見積もりを出しているか、自分には分からないことがほとんどだ。その場合、依頼主とフリーランスの間に情報の非対称性が生まれ、情報が少ない方が不利になることがある。依頼主が「他社はもっと安かったな」と言って値下げを要求してくることもある。

このようなことがあるため、事前の情報収集と自分の最低見積額を決めておく必要がある。私が相場の参考にしたのは、ランサーズなどのサイトである。実際に依頼主がいくらくらいの予算感なのかがわかる。その業界に知り合いがいれば聞いてみるのも現場の声が聞けるからおすすめだ。特に開発系の案件だと落とし穴が多いので、信頼できる人がいれば聞いてみるのもいい。

私の場合、単純作業の見積もりは自分でも悲しくなるくらい低かったが、逆にプログラミング関係のことだと提案するのが怖いような見積もりでも相手が「結構安めにやってくれるね」みたいになったこともある。最初は「こんな金額で提案して高いと思われないかな」とビビっていたが、相手から「これ安いね!」と言われると損した気分になるのだから不思議なものである。また、自分が提案できる見積額の最低を設定しておくことも大切だ。なんだかんだで値引き交渉はあるのでどこまでなら下げられるか、もしくはどの業務を無くせば下げられるかなどを想定しておくことが大切だ。

あなたの作業にいくらの価値があるのか

ここまで見積もり作成の簡単な方法として時給計算の話をしてきたが、私は見積もり作成を時給計算するのは間違っていると思っている。自分の時間をいくらで売るかを考えるかよりも、どれだけの価値を生み出すかを考えるべきだと思うからだ。時給という考え方自体、自分の時間を切り売りしているだけのものである。自分の生み出すものの価値を正確に判断して、その価格を決めるのが真にあるべき姿だと思う。時給計算はどこまで行っても雇われ根性が染みついた考え方だ。たとえ5分でできる作業でも、他の人にとってはそれが数百万円の価値あるものかもしれない。

実際に私が受けた仕事で、WEBサイトに掲載されている情報収集の仕事がそれにあたる。とあるポータルサイトに掲載されている情報をエクセルにまとめてほしいという依頼があった。普通に手作業で行えばコピペで100時間程度かかる作業だが、スクレイピングのコードを2時間程度で作成してしまえばあとは、寝ている間にPCが勝手にやってくれる作業である。この場合、実際に自分が稼働した2時間*時給で見積もりを作成するべきだろうか。相手は、このリストをかなり急ぎで欲しそうだし、これがないとかなり困ったことになる場合、時給5000円計算では1万円だが、20万円といっても相手にとってはそのくらいの価値のあるリストなら発注してくれるだろう。簡単に開発できるが、それを使えば依頼主の会社は年間1億円の利益が出るシステムがあったならば、こちらが1000万円の見積もりを出しても相手は余裕で発注してくれるはずだ。

しかし、現実的には相手がその依頼にどれだけの価値を見出しているのかを判断することは極めて難しいし、単発の依頼であれば現実的には不可能とも言えるかもしれない。だからこそ、多くの受託開発会社は見積もりの作成を時間換算で行わなければならないことになっている。時間換算で格安計算してくる会社があると、どこまで行っても価格競争になってしまう。結局、ここに神の見えざる手が働いてるということだろう。受託開発会社は大変だ、などと思いながら私も結局同じことをやっている。

最後に

私がフリーランスになってから、見積もりを作成するときは基本的に時給換算をしていた。未だに見積もりを適正にできているか自信はないが、基本的な考え方はこんな感じ。もし他の見積もり作成のいい方法がありましたら、ぜひ教えて頂きたい。

法人化した今でも、仕事の依頼を受けて見積もり作成はしょっちゅうしているし、見積もり作成を通して「どうしたら自分の収入を増やせるか」と考えるようにもなった。これからフリーランスになる予定のない人も、何かの際に「これっていくらくらいになるのかな?」と考えてみると面白いかもしれない。